基本診療料の引き上げと新設の「ベースアップ評価料」で確実な賃上げを
増加する生活習慣病への対応強化のため、関連管理料を再編
2024年度診療報酬改定(以下、本誌において「今回の改定」)では、物価高騰や賃金上昇などの社会情勢の変化を踏まえ、「現下の雇用情勢を踏まえた人材確保・働き方改革の推進」が重点課題に位置づけられました。
これを受けて、23年末に財務・厚労両大臣の折衝を経て決定した診療報酬本体の改定率は+0.88%となり、このうち「看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種について、24年度にベア+2.5%、25年度にベア+2.0%を実施していくための特例的な対応」に+0.61%分を、さらに「40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所等で従事する者の賃上げに資する措置分」に+0.28%分を充てることとされました。改定率が+0.88%のなかで、賃上げに0.89%(0.61%+0.28%)が充てられた計算になり、まさに賃上げを前面に打ち出した改定になりました。
そして、そのための具体的な対応策として、初診料、再診料、外来診療料、入院基本料等の基本診療料が引き上げられるとともに、賃上げに対応するための特例的な診療報酬として「ベースアップ評価料」も新設されました。
一方で、削減の対象となったが「生活習慣病を中心とした管理料、処方箋料等の再編等の効率化・適正化」であり、これによって▲0.25%分を削減することとされました。このメインターゲットとなったのが「特定疾患療養管理料」で、同管理料の対象疾患から患者数の多い糖尿病、脂質異常症、高血圧症の3疾患が除外されるとともに、3疾患の患者は新設の「生活習慣病管理料(Ⅱ)」を算定するように促されました。今後、対象となる医療機関が生活習慣病関連の管理料等について、どのような選択をするのかが注目されるところです。
また、これまでは「4月1日」とされていた改定の施行日が、今回の改定から「6月1日」になったのも大きな変更点です。改定内容の決定から施行までの期間が短いことで、医療機関やシステムベンダーに過重な負担がかかっていたことに配慮した対応ですが、薬価改定はこれまでどおり4月1日施行となるため、現場での混乱を危惧する声も上がりました。
地域包括医療病棟の新設で高齢患者の救急搬送等に対応
オンライン資格確認を活用した情報共有等で医療DXを推進
「賃上げ」を前面に打ち出した改定ではあるものの、高齢化の進展等を踏まえた病床機能の再編、地域包括ケアシステムの構築に向けた体制整備、外来機能やかかりつけ医機能の評価など、近年の改定で重視されてきたテーマについても引き続き対応がなされています。
病床機能については、急性期一般入院料1の平均在院日数要件が短縮されるとともに、重症度、医療・看護必要度の見直しがされるなど、いわゆる「7対1病床」の絞り込みが強化されました。さらに高齢の救急患者などを受け入れ、リハビリテーション、栄養管理、入退院支援、在宅復帰などの機能を包括的に担う病棟への評価として「地域包括医療病棟入院料」が新設されたことも注目を集めました。看護職員配置が10対1の同入院料は、既存の急性期一般入院料からの転換や地域包括ケア病棟からの転換も見込まれており、今後、地域における病床の再編において重要な役割を担うことになるかもしれません。
また、今回の改定は、介護報酬、障害福祉サービス等報酬が同時に改定される「トリプル改定」でもありました。そのため、介護保険サービスや障害福祉サービスとの連携推進を意図した改定項目も数多く盛り込まれました。介護保険施設の「協力対象施設」となり、入所者の急変時等における入院の受け入れを評価した「協力対象施設入所者入院加算」の新設などは、その代表的な項目です。リハビリテーションにおいても介護事業者・障害福祉事業者との情報共有の評価などが進められました。
かかりつけ医機能については、地域包括診療加算や同診療料の要件が見直され、長期処方やリフィル処方への対応、ケアマネジャー等との連携強化、認知症対応力の向上などが新たに盛り込まれました。これらに対応することが診療報酬上における「かかりつけ医の要件」というわけです。
さらに、23年4月にオンライン資格確認が原則義務化されたことを受け、医療DXのさらなる推進が図られたのも今回の改定の特徴です。オンライン資格確認で取得した診療情報・薬剤情報等を活用できる体制を整備するとともに、電子処方箋や電子カルテ情報共有サービスを導入し、診療に有効活用している医療機関や薬局を評価した「医療DX推進体制整備加算」が新設され、医療DXに向けた取り組みを後押ししています。